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第3回スキナベーブ赤ちゃんエッセイコンテスト

妊娠・出産、新しい生命の誕生に接して

  入選 一般部門
思いがけない休暇 女性 39歳
「えーっ、本当に入院ですか?」
「破水しているから、このまま車椅子で病室まで行きましょうね」と、看護士さんは気の毒そうに言った。
顔がカーッと火照ってくる。産前休暇に入る4日前。尿がもれているような感じがしたので、念のために受けた診察だった。仕事はまだ終わっていないし、入院の準備どころか、寝ている子どもに何も言わずに出てきたではないか。朝起きて母親がいなかったら、すごく変だろう。とりあえず、夫にまかせるとして…。いや待てよ、思い描いていた産前休暇の美しい計画はすべてパーってこと?などと、頭のなかはグルグル、脳内モルヒネ逆バージョンが分泌されているような状態であった。
 ふと、我に返ってみると、急に心配になってきた。
「お腹の赤ちゃん、大丈夫なんだろうか」

 それにしても、おかしな夜だった。病院に向うために呼んだ深夜タクシー。運転手は女性だった。
「○○病院までお願いします」
「こんな夜中に・・・。お客さん、もしかして陣痛?」
「病院に電話したら、破水の可能性があるから入院の準備をして診察受けてくださいって言われたんですよ」
「あらー、大変。でも心配ないわよきっと。数年前に、私のタクシーで赤ちゃん産んだ人がいるんだから。急に産気づいちゃって。でも超安産だったのよ」
「えーっ」
私は心底仰天してしまった。臨月を控えた妊婦が分娩室代わりになったタクシーで病院に駆けつけるなんて!幸先が良いのか?悪いのか?

 病室に入るやいなや、陣痛を抑えるための薬を24時間点滴しっぱなしで、トイレにも行かせてもらえない絶対安静の患者に早変わり。まだ34週と6日目。赤ちゃんの体重は想定2400gしかない。
「赤ちゃんのためにも、お母さん、頑張ってあと2週間は持ちこたえましょうね」と、明るく看護士さん。破水が引き金となり、早産になる危険性が高いらしい。この時期、1日でも1分でも長く赤ちゃんを子宮で育ててあげるのが妊婦の務めなのである。
「困ったなぁ、絶対安静?2週間も点滴打ちっぱなしでベッドに寝たきりなんて冗談じゃない」と、心の中で却下したものの、赤ちゃんのことを考えると「おーし、やってやろうじゃないの」と、根性がすわった。赤ちゃんの力、偉大なり。

 結局、寝たきりであろうと、点滴を打っていようと、何をしていようと、入院の翌日に陣痛はやってきてしまった。4時間後、スルッと2,114gの元気な女の子が誕生した。上の子を初めて産んだときも、「どこかで1度産んでるんじゃないのー」と言われるほどのスピード出産だったが、今回も早かった。しかも誕生日までが1ヵ月以上も早まるとは。自分のことは棚に上げて、「なんてせっかちな赤ちゃんだろう」と笑ってしまった。

「せっかち」ちゃんのおかげで、出産準備はおろか、家計は火の車、待ちに待った産前休暇も吹っ飛んでしまった。が、思いもよらない「休暇」がころがり込んできたのである。赤ちゃんは大きくなるまでの約3週間、私が退院した後も入院した。いっしょに退院できないのは残念だったが、産後の疲れきった体をじっくり休めることができた。そして何よりも、毎日通院して赤ちゃんに母乳を飲ませ、看護士さんたちと授乳室でワイワイおしゃべりしたひとときは、心に平和をもたらす豊かな時間となった。この休暇のおかげで、赤ちゃんとの生活は、マタニティブルーとは一切無縁のものになったのだ、と思う。

「毎日遠くから来るの、大変でしょう」
「まさか。もう病院にくるのが楽しくて」
そう。通院が楽しいことなんて、今後一生涯ありえないだろう。





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