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第3回スキナベーブ赤ちゃんエッセイコンテスト

妊娠・出産、新しい生命の誕生に接して

  入選 一般部門
新しい社会との出会い 女性 30歳
 息子が生まれてから一年、毎日が大騒ぎだった。夫も私も初めての育児にてんてこまいだった。「これは協力しあわないと、どうにもならない」ということを、言葉にしなくてもお互いに感じていたと思う。恋人気分の抜けないお気楽な夫婦から、家族として、そして夫婦としての結束が強まったいい1年だった。そして、もうひとつ出産前には想像もしていなかった変化がある。
 私が住んでいるのは都内の住宅地だ。昔ながらの商店街があり、私の両親くらいの世代の人が圧倒的に多い。3年前に越してきたとき、私はまだフルタイムで働いていた。とりあえず、お向かいと両隣にはごあいさつに伺ったものの、平日はほとんど留守にし、休日は寝ているか、遊びに行ってしまっている今時の共稼ぎ夫婦だった私たちはご近所の人とのつき合いはほとんどなかった。
 息子が生まれて1ヶ月後に実家から戻った私は、夫が仕事にでかけてしまった後、ちょっとした緊張感と不安の中で過ごしていた。まだ首もすわらない息子。おむつがえも授乳もまだスムーズとはいえない。しかも、その日からひとりで家事もこなさなくてはならない。
 夕方、少しだけ息子を外気にあててみようと、抱っこして散歩をすることにした。寝ている息子をおくるみに包んでこわごわと外にでた。
「あら〜、いつ生まれたの?」いきなり、水まきをしていたお向かいの奥さんに声をかけられた。「かわいいわねえ、男の子? ご実家で生んだの?」矢継ぎ早に質問され、しばらく立ち話をした。こんなにきちんと話をしたのは、引っ越しのごあいさつの時以来だ。しかし、それだけでそれまでの不安や緊張が緩み、気持ちがすっと楽になった気がした。
 次の日も散歩にでると別の近所の方に声をかけられた。その後も近所の商店街やスーパーに行くと必ず誰かが、「かわいいわね〜」「今何ヶ月?」などと声をかけてくれた。中には息子の名前を覚えてくれて、遠くから声をかけてくれる人もいる。月齢があがり、A型からB型ベビーカーに変わると「あら、お座りできるようになったのね」、靴を履くようになると「もうあんよできるの〜」など息子の成長の度に声をかけてもらった。
 出産の3週間前まで仕事をしていた私は、不安になったことがある。昼間息子とふたりきりで家にいて、育児ノイローゼになるのではないか、仕事を恋しく思い、社会に取り残されたような気持ちになって、育児を楽しめないのではないかと。
 しかし、今私は想像していなかったほど、ゆっくりと心穏やかに育児を楽しむことができている。それは多分息子の成長を、地域のたくさんの方々が見守ってくれているという実感があるからだと思う。「風邪気味なんです」「転んで頭ぶつけちゃったんです」「離乳食が始まったんです」「明日から旅行なんです」など、不安なことも、うれしいこともちょっとした挨拶とともに口にすることができる。それに対して短い間にアドバイスや激励の言葉をもらうこともしばしばだ。
 無事1歳を迎えた誕生日には声をかけられるたびに「今日で1歳なんです」と伝え、そのたびに息子は「おめでとう〜」と祝ってもらった。
 しばらく育児に専念すると決めたとき、楽しみな気持ちと同じくらい不安も感じていた。私にとってずっと仕事の場所だけが「社会」だった。そこから離れるのだから、しばらくは退屈な日々が続くのは仕方がないと、あきらめにも近い気持ちを持っていた。だがそれとは違う新たな「社会」に出会い、救われ、見守られ、息子だけでなく私も育てられていると感じることがある。そして、いかに私がせまい世界しか見ていなかったかということもわかった。子供がもっと大きくなって、仕事に復帰したとしても以前の私とは違うもっと広い視点でものをみれるような気がする。それが、この1年の私の大きな変化だ。
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