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第4回スキナベーブ赤ちゃんエッセイコンテスト


入選 一般部門
恐怖の沐浴 愛知県 会社員 41歳 竹内 ゆうじ
 我が家には、なかなかこうのとりがやってこなかった。結婚して七年。あきらめたころに、恵まれた。
 だが、切迫流産で、妻は入院。幾多の危機をのりこえ、無事娘が生まれた。
 そんな娘だから、(もちろん、普通に生まれてもかわいいのだが)かわいくてしかたがなかった。本当に目の中にいれてもいたくないほどのかわいいものが世の中にはあるんだと思った。
 しかし、そんな私も、ひとつだけ苦手なことがあった。沐浴である。おむつをかえたり、ミルクをあげるのは、なんのことはないのだが、お風呂だけはこわかった。
 妻は平気で入れるのだが、私は、お湯をのませてしまうんじゃないか、すべらせて落としてしまうんじゃないかなどなど、心配が先にたって、未経験だった。妻がお風呂にいれて、終わったあと、娘をうけとり、用意しておいたバスタオルの上に寝かせて拭くのだ。

 ある日、妻が言った。
「今日、お風呂いれてね。私、なんか、腕が痛いわ」
 ええ!?だった。そんな、無理だよ。恐いよ。そう言ったが、“かわいくないの?”の一言で、強行採決となった。娘が大人になるまで、お父さんは、あんたをお風呂に入れなかった、なんていわれたらたまらない。
 私は、決死の覚悟で娘を抱いて、お風呂場にむかった。そんな私の心を感じたのか、
 抱き方がぎこちないのか、妻のにおいと私のにおいが違うのか、娘は号泣した。おいおい、お父さんだよ。お前のこと、大好きなお父さんだよ。どうして泣くんだよ。
 そんな私の困った顔を、妻は笑いながらみていた。
「ほらほら、お湯、たらいにはれたよ。ちゃんと入れてね。耳、おさえないと、水がはいっちゃうよ。」
 妻がにこにこして言った。わかってるよ。後ろから耳をおさえるんだろ。水入っちゃうからね。わかってますって。
 私は娘を腕に抱いて、そっとお湯につけた。号泣が爆泣に変わった。熱かったのか?そう思った次の瞬間、娘がふっと泣き止んだ。顔が気持ちよさそうになった。
 まあ、なんという変わり方だろう。もう、気持ちよくて寝ているよ、こいつ。私は、しっかり耳をおさえ、もう一方の手で、ガーゼのハンカチをもち、体を洗った。

 本人はゼロ歳だし、何もわかっちゃいないんだとは思う。しかし、お湯の中で、私の片腕の上にのり、疑いもしないそのすこやかな、気持ちよさそうな笑顔に、私は、(すっかり親ばかなのだが)頼られているんだ!と胸の奥から感動が湧き上がってくるのを感じた。
 毎日毎日、仕事はきつい。嫌なことばかりだ。だが、この腕に、私のことだけをたよりに笑顔を浮かべているこのかわいい娘がいる。
それが勇気を与えてくれるのだ。
 その時まで、人間は、自分を守ってくれるよろいのようなものがたくさんあれば、強くなれるのだと思っていた。でもそれは間違いだった。たとえ丸腰でも、自分がまもらなくちゃいけないものができたとき、人間は強くなれるんだなということが、頭でなく心でわかった気がした。
「のぼせちゃうよ!」
 妻の声で我にかえった私。大きくなれよと私は娘にささやいた。

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