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入選 |
一般部門 |
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私の代わりの祖父孝行息子
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福岡県 主婦 34歳 佐藤 千夏 |
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「生むときの痛みは、生まれてきた赤ちゃんを見るとすぐに忘れる」と聞いて、正直信じてなかった。あの丸一日以上続いた陣痛の痛さといったら・・・。 分娩台の硬いベットで数分おきに押し寄せる痛みに絶えながら、私は心の中でこう決心していた。「もう絶対に妊娠なんてしない、一人っ子でいい!」と。 結局、なかなか生まれず、吸引で引っ張り出してもらって、やっとのことで息子は産声を上げた。その時はまだ赤く、しわくちゃな息子で、お世辞にもかわいい、とは思わなかったが、とにかく元気に泣いている息子を見て、ほっとした。 しばらくして、産湯できれいになって、かわいいベビー服をきせられた息子が、私のところに連れられてきた。 息子を見た私の第一声は「わあ!かわいい〜」だった。 横を向いてすやすやと眠っているかわいい赤ちゃんが私の息子だなんて!結局あの言葉の通り、痛みやつらさはすっかり忘れて、半年もたつと、二人目はいつにしようか、今度は女の子がいいな、なんていろいろ想像を膨らませていた。 赤ちゃんの力ってすごい!本当にあのつわりのつらさや、出産の痛みさえ、忘れさせるのだから・・。 考えてみると、息子は生まれてから、いったい何人の人を笑顔にしてきたた゜ろう。 母親である私はもちろんのこと、初めて父親となる夫、初孫の誕生を楽しみにしていた両家のおじいちゃん、おばあちゃん。それに友達や親戚、近所の人達まで、「かわいい〜、抱っこさせてね」と笑顔にさせていた。 特に私の祖父はひ孫である息子の誕生を喜んでくれた。 寝たきりの生活も、もう10年近くになろうとしていた祖父。 祖父の入院先の病院から電話がかかってきて、「どうしてもひ孫さんに会いたいとおっしゃってて、朝からずっとエレベーターの前で待っておられます」と看護士さん。私は慌てて、生まれて一ヶ月の息子をベビーラックに寝かせて病院まで連れて行った。 案の定、エレベーターで上がり、ドアが開くと、そこには車椅子に座っている祖父がいた。祖父はそのしわしわの大きな手で、すやすやと眠っている息子の手を触り、「かわいいなぁ、かわいいなぁ」と言った。「名前をここに書いてくれと」そこにあったティッシュの箱を渡され、私は息子の名前を大きく書いた。 祖父はただ、うれしそうにうんうん、と大きくうなずいた。 あんな優しい表情をした祖父を、何年ぶりに見ただろうか? いや、もしかして初めてだったのかもしれない。 それから一年後、祖父は他界した。 何一つ祖父にしてあげれなかった私だったが、息子が代わりに祖父を笑顔にさせてくれた事、とても嬉しく思うし、誇りにも思う。 そんな息子も今では小学一年生。優しくて、泣き虫で、顔が段々父親に似てきたようだ。おまけにお兄ちゃんにもなった。 (結局、一人っ子でいい、なんて決心は吹っ飛んでしまった) 私を怒らせることもしょっちゅうだけど、やっぱり今でもみんなを笑顔にさせている。
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