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第5回スキナベーブ赤ちゃんエッセイコンテスト


優秀賞 一般部門
電車内シアター 東京都 主婦 31歳 石田 愛
 親の私が言うのもなんだが、うちの子はかわいい。赤ちゃんはどの子もかわいいけれど、うちの子は特にかわいい。・・・とわたしは思っている。(どの親もそう思うのでしょうが・・)いつも電車に乗ると周りの乗客の皆さんに笑顔をふりまき、そしてその笑顔をみたたくさんの人達が声をかけてくれる。赤ちゃんの笑顔は、車内の人々の「人生劇場」に招待してくれる、電車内シアターの切符のようなものだ。
 ある時は隣に座った、買い物袋をたくさん下げたおばちゃんが話し掛けてきた。「かわいいわねえ、私も三人の男の子を育てたのよ・・一番上の子は今アメリカに転勤で・・二人目はこ間結婚して・・・」と家族構成を一通り説明してくれた。15分でこのおばちゃんの素性をおおかた知ることができる。「ああ、もうここで降りないと」という言葉にほっとしたような、もう少し続きを聞きたかったような・・しかし三人の子を育てる大変さは今の私には身にしみてわかる。普段なら車内の風景に溶け込んでいる普通の「おばちゃん」がなんだかとても偉大に見えた。
 またある時は白髪のおじいちゃんがご機嫌な息子の手を握ってあやしてくれていた。「うちにも2歳と4歳の孫がいるんだけど遊びにくるとうるさくて。この間なんか私が大事に食べていたからすみをぱくっと一口で食べちゃって・・・」などと愚痴る顔はとても幸せそう。孫二人の写真まで見せてくれた後、今時あまり見かけないはっかの飴を二つくれて電車を降りていった。
 こんな風にとても愛想のいい息子だが、相手が若くてかわいいお姉ちゃんだったりするとその笑顔もたちまち3割増になる。女子高生三人組の「きゃ〜、超かわいい」という黄色い声援を浴びた日には、私にも見せることのない百万ドル以上の笑顔で手足をバタバタさせる。本能って、すごいと感心させられる一瞬だ。
 逆に若いお兄ちゃんはなかなか手ごわい。茶パツにピアスでなんとなく強面の、話し掛け辛いお兄さんにも恐いもの知らずの息子は平気で笑いかけ「あー、あー、」とひたすら声をかける。ちらっとこちらを見ただけでまた下を向き、ずっと携帯をいじっていたけれど、降り際ににこっと微笑んで、指先で小さく手を振ってくれた。赤ちゃんの笑顔パワーは大人たちの外見ではわからない真の姿を引き出してくれるのかも知れない。
 そんな赤ちゃんだった息子も今はもう4歳、現在は二代目の次男がこの役目を引き継いでいる。
 先日も三人で電車に乗った時のこと。いつものように次男の満面の笑顔に一人のおばあちゃんが振り返り、あやしてくれていた。そしてなんだか懐かしそうに私達を見つめ、「子育て中が一番いいのよ。」とつぶやいた。ところがそこに長男が一言、「でもねえ、ふたりもこどもがいると、たいへんなのよお。」・・・「大変」の原因、張本人のこの発言におばあちゃんは「負けちゃいそう」と噴出し、周りにいた乗客も苦笑い。
 ますますパワーアップしたこの二人のコンビで電車内シアターは今日も上映中。街をゆく人の数だけ存在するさまざまなストーリーに触れ、私の世界を広くしてくれる気がする。生意気盛りの長男と部屋を荒らしまわる怪獣のような次男に囲まれ、体力勝負の日々を送っている近頃の私。けれどあのおばあちゃんが言うように、長い人生の中で、今が一番「いい」時期なのかもしれない。この子達はこれからどんどん大きくなってどんな大人になるのだろう。そして、どんな「人生劇場」を繰り広げてくれるのだろうか。将来がとても楽しみだ。
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