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入選 |
一般部門 |
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赤ちゃんの仕事
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北海道 主婦 45歳 小畑圭子 |
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父は、もともと頑固で怒りっぽいところがあった。年とともにその傾向が強くなって、私がたまに実家に帰ると、些細なことにいらだって母をどなりつける父の姿を、目にすることになる。 私は結婚して一人目の子がいたので、育児に追われ、また半分はそんな父を敬遠する気持ちもあって、車で三時間ほどの実家へもあまり足踏みしないでいた。 上の子が五才になった夏、お盆に帰ったときは、二人目がおなかにいた。それまで実家の母にも何も言っていなかったのだが、母はさすがに気づいて尋ねた。 「できたんでしょう。いつ生まれるの」 「まだ先。予定日なんてあてにならないから」 私の気性をのみ込んでいるから、母もそれ以上は聞かない。助かる。生まれてくる子がかわいくないわけではないが、かわいいからこそ、妊娠中の自分がイライラするということは避けたいのだ。上の子の気持ち、というのもある。たとえ好意からであっても、何か言われるのはありがたくないし、気を遣われるのもうっとうしい。こういう偏屈さは、父に似ている。ただ私は父のように、そばにいる人間に当り散らしていいとは思っていないから、冷淡な態度になる。かわいげがないのは同じだ。 こんなかわいげのない私が、妊娠出産に関しては何もかも順調というのも、申し訳ない気がする。上の子のときも、つわりもなかった。定期検診もさぼっていたのに、不測の事態のひとつもなく、予定日どおりに出産となり、産後の回復も速かった。 ―今度の子もぶじ予定日どおり生まれてくれるといいな。 それだけを願いながら、予定日前日は赤ちゃんの服を縫っていた。ミシンに向かっているうちに、筋書き通りにあの痛みがやってきた。 ―よしよし。 間隔が詰まった頃を見計らって、予約どおりに入院。おかげで精神的には余裕たっぷりで分娩室に入った。そして、超音波診断の予測にも忠実に、男の子が生まれた。 上の子はすぐに泣きやんでぱっちり目をあけたのに、この子はなぜか泣き続け。それでも五年ぶりに見る、生まれたての幸せ。人間離れのしたやわらかさ、軽さ。それでいて目を離せない存在感。そこにいる、というだけで。 実家の両親が来たのは夕方だった。 「もっと後になるかと思ってたよ、おなか、あまり大きくならないんだもんねぇ。」 しゃべる母の横で、父は黙っている。母が渡した赤ちゃんを抱きはしたものの、また母に戻す。困ったような顔で。母が言う。 「十月二十一日だなんてねぇ。びっくりしたわ。」 それは、父の誕生日。 黙っていたけれど。 父はまぶしそうな顔をして横を向く。私もそれ以上何も言わない。本当は小さい子が大好きなのだ。 赤ちゃんは何も知らない顔をしている。そう、この子は何も知らない。そして父のほうは、何も知らない顔をしようとしている。笑うのは照れくさいのだろう。素直に笑う、ということが、偏屈者には難題なのだ。笑顔になるのを避けようとする妙な顔。 妙な顔だけど、これもやっぱり、笑顔というんだろう。 両親が帰った後、乳児室に赤ちゃんを戻しに行き、もう一度、廊下側の窓から、わが子を見た。生まれることで自分の祖父に誕生日プレゼントをした功労者は、あいかわらず「何も知らないよ」という顔で眠っている。 ―いい仕事するよね、赤ちゃんて。 そこでふと視線を上げると、窓ガラスに映っている私の顔。 やっぱり笑顔、になっていた。
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