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入選 |
一般部門 |
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きんぎょばち
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千葉県 専門職 24歳 齋藤 望 |
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「あ、今動いた?」 気のせいみたいに小さな「こぽこぽ」という振動。私は思わず仕事の手を止めて自分のお腹をまじまじと見下ろした。まだまだ目立って見えないお腹だけれど、初めて小さな小さな声が聞こえた気がした。
一日いちにちがひどく長く感じられたツワリの時期は、乗り切ってしまえば呆気ないほど短くて、私は気持ちの悪さが付き纏っていた日々を懐かしく思うようにさえなっていた。寂しいのにも近いかも知れない。だって、まだ胎動を感じることができなかったから。 『5ヶ月に入れば、早い人は胎動を感じることが出来ます』そう書かれた母子手帳の文字を何度も読み返し、「もう6ヶ月になるのになあ」と不安になってお腹を撫でてみる。けれどもともと体格の良かった私のお腹は、どこのふくらみが赤ちゃんなのだか分からなかったし、気持ちの悪さもキレイさっぱり治ってしまっていた。ツワリの最中はこの気持ち悪さが赤ちゃんのいる証拠だと思うことで安心できたのに…と溜め息を吐いてしまう。 本当にこの中にいるのだろうか。 ちゃんと育ってくれているんだろうか。 検診に行けば心臓がパタパタ動く映像が見られたし、ちゃんと人間の形が出来始めているのも映っている。けれども不安で不安で、独りきりのときはじっと耳を澄ましていることが多くなった。ちょっとでいい、「ここにいるよ」って教えて、と。 そしてつい先日、彼(彼女?)は私に初めて声を聞かせてくれたのだ。控えめだったけれど、お腹の中からトントン、と。 その時私が思い浮かべたのは、お祭りのときに掬う小さな金魚のことだった。水を入れたビニールの袋を突付くときの小さな振動、彼の合図はあの感触にとても似ているような気がして。 最近は「とんとん」が「ぐるぐる」という感じに強くなり、彼の合図に気づく回数もどんどん多くなってきている。小さなお祭りの金魚がフナくらいの大きさになってきた感じだ。 これが鯉になったら、マグロくらいになったら、と考えると楽しくなってしまう。そうなるまえに少しでも身体を鍛えておいて、彼が安心して泳げるような丈夫な水槽にならなければと、安産に効くという体操をやってみたり、苦手な食べ物も頑張って食べてみたり。今まで考えられなかった自分の姿は、思っていたより格好いい。
人の親になるということを、当たり前のように思っていた。時が来れば、状況が整えば、自然に親になれるような気がしていた。 けれどいざ彼が私の中に存在してみると、自分の未熟さに身が竦むことの方が多く、生まれてくる彼に不安を感じることが多い。未熟な私に人間が育てられるのだろうか、あなたは望まれて生まれて来たんだと彼に上手く伝えられるのだろうか。 彼をどれだけ素直に愛せるだろうか。 そんなふうに難しく考えてしまう私に、小さな彼はパンチをくれて喝を入れてくれる。遠くを見る前に、足元を見ろって言うように。 彼に会えるのは11月半ば。まだ暫く、彼は私という金魚鉢の中でおねむだ。この水槽は透明じゃないから彼の様子は見えないけれど、私と彼は彼のパンチとキックで繋がっている。だから私はもう寂しくない。不安にもならない。 早く会いたいね。ちゃんと私がお母さんだとわかってね。 私は彼に歌を歌いながら話しかける。お祭りの夜みたいにワクワクする気持ちで、私の金魚に聞こえるように。
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