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佳作 |
渡瀬 多華子 |
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「親」になれたね
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兵庫県 主婦 33歳 |
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暦の上では春になっていた。 「お産ですね、分娩室に行きましょう」 いよいよ出産の時が来た、もうすぐ赤ちゃんに逢えるんだ。
初めて妊娠がわかった時は夏だった。 「赤ちゃんが出来たみたい」と言うと主人は「えっ!?」と一瞬固まってしまった。 実は主人の父親は主人が生まれる前に他界しており、父親というものを全く知らずに過ごしてきた。 父親とはどうすればいいのかわからないと日頃から悩んでいたのだ。 「子供がかわいいと思えたらそれで父親になれるよ」と励ましてみたものの、 「ふ〜ん」とまるで他人事のような反応しか返ってこなかった。
秋になって出産準備に赤ちゃんの産着を買いに行った。 「すごい、ちっちゃいなあ」主人は私の後ろから覗き込むように服を選んでいた。 しばらくすると「これなんかどうかな?」といろんな服を見せに来た。 服選びにはしゃぎすぎて疲れてしまった私に代わり、主人が精算に行ってくれた。 戻ってきた主人は少し興奮気味に「ご自宅用ですか?って聞かれたよ」とのこと。 「で、なんて答えたの?」と聞くと、「は、はい…、って答えたよ」と照れた表情を見せた。 「ご自宅用だよね?」と問い返すと、主人は大きな袋を持ち上げて「ご自宅用です」と笑った。
冬になって胎動が強くなってきた。 「動いた!!」というと、主人はまっすぐにお腹を見る。 「ここ、ここ」と動いた場所を教えると、恐る恐る触ってくる。 「もっと強く押さえても大丈夫だよ」 「おっ、けっこう動くなあ」と興味津々。 「食後と入浴後によく動くの」と主人に教えてあげると、 「食べて機嫌がよくなるのは母似で、風呂好きなのは僕に似たんだな」と、変に納得していた。
そして出産を目前にした今、立会いのために主人が分娩室に入ってきて、 「自分のペースで頑張って」と励ましてくれた。 助産師さんが「頭が見えているよ、もう生まれるからね」と声をかけてくれた直後、 「うぎゃう!! うぎゃう!!」 元気な産声が分娩室中に響き渡った。 「おおっ!!」と主人の声。 助産師さんに「お母さん見てあげて」と呼びかけられた。 お母さん? そうか私の事だ!! 頭を上げると顔の半分を口にして大声でなく赤ちゃんがいた。 目はつむったまま、手はぎゅっと握って力いっぱい泣いている、男の子だ!! 胸の奥が熱くなった、「かわいい!!」と声に出すと目元も熱くなった。 「お父さん、抱っこしてあげて」 助産師さんの声に、不意をつかれた主人の「えっ、もうですか?」のうろたえる声がおかしかった。 この日、私達は始めてお父さん、お母さんと呼ばれた。 しばらくして主人が赤ちゃんを私の胸の上で抱かせてくれた。 胸にすっぽり入るほど小さく、温かい、「頑張ったね、えらかったよ」 赤ちゃんは小さな手をぎゅっと握りしめた。
翌日、主人は仕事が終わるやいなや、すぐに産院にやってきた。 そして私がいる部屋を通り過ぎて一直線に新生児室へと向かっていった。 「一緒に行きたかったのに、声をかけてよ!!」と、文句を言いそうになったが、 背中を丸めて窓越しに生まれたての赤ちゃんを覗き込む姿を見ると、なんだか気が抜けてしまった。 「僕に似てるよな」 ぼそっと、でも少しにやけた顔で主人は感想を述べた。 そして真剣に「まだ連れて帰れないのかなあ?」と、聞いてくる。 「まだ無理だよ」 と言うと、「ケチだなあ」とつぶやいた。
この子は生まれた瞬間から、いやおそらく生まれる前から愛されている。 「子供がかわいいと思えたらそれで父親になれるよ」と言った事が懐かしい。 お父さんとお母さんは新米だけど、あなたを愛することでは誰にも負けないからね。 私達を「親」に選んでくれて本当にありがとうね。
後日、主人と二人で相談し、春に翔け始めた小さな命を喜んで、「春翔(はると)」と名付けた。
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