僕の休暇|赤ちゃんの沐浴はスキナベーブ

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持田ヘルスケア株式会社

エッセイコンテスト

スキナベーブ 赤ちゃんエッセイコンテスト

【第11回】~ 赤ちゃんがくれるチカラ ~

特別賞

・僕の休暇

稲垣 良隆
神奈川県  団体職員  30歳

本格的な暑さが到来した7月の終わり頃、僕は仕事が忙しくて疲れていた。
「3日間の勉強会に参加したいんだけど、いいかな?」
妻から相談されたのはそんな時だった。専業主婦の妻がこの勉強会に参加するには、僕が会社を休み1歳の息子の面倒を見るか、息子を託児に預ける必要がある。ちょうどいいと思い、僕は3日間休暇を取り、仕事の疲れを取ることを兼ね息子の面倒を見ることにした。
「うーん、仕事の疲れを取る、ねぇ……。」
そんな僕の考えに、妻は何か少し言いたげだった。
「じゃあ行ってきまーす。今日は夕方には帰るからね。」
勉強会初日の早朝、妻は嬉しそうに家から出て行った。さて、かわいい息子に癒されながら何をしようか、と僕は久しぶりの休暇でウキウキしていた。そんな僕の考えが甘いことに気付くのに、大した時間はかからなかった。
自分のことをする時間などほとんどないのである。息子のあそぼあそぼ攻撃は止むことを知らず、常に息子の遊び相手をしなくてはならない。少しでも息子をほっとけば大泣きだ。外に連れて行けば車道に飛び出そうとし、デパートでは売り物を投げようとし……。連れ戻そうとすれば、これでもかと力いっぱい抵抗、そしてやはり大泣き。しかも疲れ知らずで、妻が帰ってくるまで全く昼寝せずにひたすら遊び続ける。
「これは想像以上だな……。」
数時間の息子の子守は何度も経験があるので、ある程度大変なのは覚悟していた。が、ほぼ丸1日となると大変さが全然違う。僕は休むどころか疲弊していく一方である。妻が言いたかったのはこのことだったのだ。
そして3日目の夕方、少しでも早く息子から解放されようと、僕は妻がいるビルの前まで来ていた。
「あれ~、迎えに来てくれたの?ありがとー。」
勉強会を終えてビルから出てきた妻は、すぐに僕たちを見つけて駆け寄ってきた。さっきまで僕に抱っこをせがんでいた息子は、妻の声が聞こえた途端、妻の方へ走り去って行く。あまりにあっけない息子からの解放に、息子から早く解放されることを望んでいたにもかかわらず、少し寂しさを感じた。
「この3日間の休みは愉しめた?」妻が聞いてきた。
「いや、育児をする専業主婦の大変さがわかったよ。肉体的にも精神的にもホントきついもんだね。」
僕がそう言うと、妻は少しニヤッとした。やっとわかってくれた?とでも言いたそうな顔だ。だが、すぐに妻の表情から笑みがなくなり、申し訳なさそうな顔になった。
「じゃあ仕事で疲れていたのに余計に疲れちゃったんだね。私のせいでごめんね。」
妻から謝られたことで、改めて自分が疲れていることを認識した。確かに息子の子守で僕は疲れていた。心身共にへとへとだ。でも、「余計に」疲れたわけではない。実は、仕事の疲れはすっかり取れていたのだ。
この3日間、息子のことで頭がいっぱいにならざるを得なかったおかげで、仕事のことを完全に忘れることができた。効率の良い気分転換になったわけだ。しかも、息子とじっくり触れ合える時間を過ごすことができたのは、父親として何事にも代えがたい喜びだったようだ。あれだけ大変だったのに、ふと振り返れば、息子の笑顔、息子の泣き顔、息子のごねる姿……すべてが以前よりもずっと愛おしく感じる。おまけ(?)に妻の息抜きまでできたわけだ。おかげで今、何とも言えない充実感に満たされている。
気付けば仕事の疲れは吹き飛び、明日からまた仕事をするのが愉しみになっていた。
「いや、意外にもいい気分転換になったよ。また何かあればいつでも子守するよ。」
息子の面倒を僕1人で見ることは大変だが、こんなに充実した気分になれるのであればたまにならいいかな、と思えたのだ。すると妻は嬉しそうに言った。
「ホント?じゃあ今週の土日もお願いしていいかな?できれば来週の土曜も。助かる~。」
僕はすぐに前言を撤回することにした。

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