もみじの手が掴んだ市民権!|赤ちゃんの沐浴はスキナベーブ

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持田ヘルスケア株式会社

エッセイコンテスト

スキナベーブ 赤ちゃんエッセイコンテスト

【第11回】~ 赤ちゃんがくれるチカラ ~

入選

・もみじの手が掴んだ市民権!

東京都  会社員  女性  44歳

私はある決意にいたるまで、輸入食品販売代理店の人事部に勤めていました。50名弱の中堅企業で人事と総務を兼任。在籍年数と‘年の功’も手伝い、「産休制度」の作成と窓口役を任されることになりました。
(出産経験のないワタシが・・・)
最初は自信が持てませんでしたが、部では私以外はみな男性。
ワンマン社長の手ほどきを受けながら、大綱を固めていくことになりました。
相談に訪れた一人目はAさんでしたが、産休ではなく「育児休業」に関するものでした。復職の確固たる約束もなく出産休暇を申し入れ、実力で復職したやり手の営業ウーマンです。仕事も順調に、家事・育児を旦那さんと協力しながらだったのですが、赤ちゃんと過ごす時間をもっと増やしたいとの理由から、育児休業を提案。私はもちろんOKでしたが、いい顔をしなかったのが社長でした。Aさんは営業のホープであり、社長は焦ったのかもしれません。結局、申請は通りませんでした。
「もったいないよぉ」
「またバリバリ働けばいいじゃない。これからのほうが、お金か かるのよ」
同僚の声を背に、彼女は「休業」ではなく退社の途を
選びました。
しばらく産休制度を利用する社員はいなかったのですが、なんと私にその機会がやってきたのです。ふいに子宝に恵まれたアラフォーの私。
(ワタシ、第一号?)
「そりゃ、そうだよ。キミが作った制度をキミが実践する。
絶好のモデルじゃないか」
数ヵ月後。大きな産声が私の胸に響きました。仕事に不満はなく、落ち着いたら職場復帰をと考えていたのですが、待ったをかけたのが三ヶ月ほど経ってから。
娘がアトピー性皮膚炎を発症してしまったのです。小さな体にジクジクした湿疹が侵入し、耳切れや太腿の付け根に生じる黄色い膿が痛々しくてたまりません。私に食物アレルギーなどはなく母乳で育てていたのですが、疾患を持たない人にも潜在的なアレルギー体質の可能性があると聞いて唖然ぼう然。実際に、私が摂取した食物が授乳を介して赤ちゃんの体に影響しているのではと医師から告げられた時は、ショックを受けました。前向きに捉えれば、親子というのは切っても切れない絆で結ばれている証でもありましょう。今後のことを考えるたびに、赤く腫れた手でかゆみから逃れるように、私の指をギュッと握りしめようとする娘。
と言われているようで、私は一年をかけて育児に専念しようと決意したのです。
その後、「育児休業」を申請する旨を社長に話したのですが、けんもほろろ。
言外に(復職してもポジションはないぞ)の印象。
(後続のためにも育休を形骸化させてはならない)
これは出産が与えた試練であり、
逆に力をもらった気がしました。

一心同体となった心の声に励まされるように、実体験を基にした「育児休業制度」の企画書作成をスタート。ブログやSNSから様々な情報を漁り、壁に当たった時になぜか頭に浮かんだAさん。久しぶりに連絡してみると、彼女は別の会社の同じポジションで活躍していたのです。
「女性って、これまで勤めてた会社を退社したからって、なにも 社会から退くわけじゃないじゃないわよ。会社から離れて見え てくる社会っていっぱいあるのよね。出産で色々と経験した わ・・・」
パワーアップした彼女からさらなる勇気をもらい、企画書をまとめあげました。
題名は「育休に真の市民権を!」
社長もある程度納得してくれたのか、一年後に私は同じ部署に復職しました。ただ、人事・総務兼任ではなく、総務専任。母体と同様に、社会が目指すべき制度や価値観にも産みの苦しみがあるのですね。
帰宅すると、復職を祝ってくれるかのように、娘がもみじのような手でグーパーグーパーしてくれました。「育休」に勝ち負けはありません。私は出産によって母親になり、女としての力もついたように思います。 (おわり)

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