「つながりは広がってゆく」|赤ちゃんの沐浴はスキナベーブ

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持田ヘルスケア株式会社

エッセイコンテスト

スキナベーブ 赤ちゃんエッセイコンテスト

【第11回】~ 赤ちゃんがくれるチカラ ~

入選

・「つながりは広がってゆく」

東京都  会社員  男性  29歳

先日、友人に赤ちゃんが生まれた。
彼とは高校時代からのつきあいで、僕の数少ない親友のひとりだ。親友といっても、年に数回、仕事終わりに居酒屋で時間を忘れて話をする程度だったが、ぼんやりとしたつながりをいつも心の奥で感じていた。
「実は今度、結婚することにした」
と照れながら話してくれたのも、確か線路脇にある小さな居酒屋だった。
結婚披露宴の招待を受けたのは、二人が籍を入れて半年以上経ってからだった。二人とも忙しく、時間をつくれなかったから、と電話口で彼は笑った。奥さんの故郷で親族同士で式を挙げ、一週間後に都内で披露宴をする予定だと話してくれた。
しかし披露宴が数日に迫ったある冬の夜、突然友人から電話があった。
「妻が式の途中で体調を崩して動けなくなり、いま地元で入院しているんだ。切迫流産らしい…」
そして、都内での披露宴は中止になりそうだと告げた。
いつも穏やかで落ち着いている友人の声も、どこか上ずっていた。今は奥さんの傍にいてあげるだけでいい、他のことは何も考えなくていいから、と僕も動揺を抑えながら伝えた。
その後も定期的に連絡があり、体調が快復に向かっていること、順調におなかの中で赤ちゃんが育っていること、をその都度知らせてくれた。
季節は過ぎ、今年の六月中旬、ついに赤ちゃんが生まれた。「娘ができました。母子ともに健康です」とすぐにメールをもらった。
本当によかった、とまるで自分に子供ができたかのように、僕はほっとしてしまった。
それから一ヶ月後、子育ても落ち着いてきたと聞き、休日の夜に友人宅を訪れた。
赤ちゃんは本当に可愛らしかった。あの夜中の電話を思い出すと、目の前の寝顔が奇跡のようにも思えた。
どちらかというと寡黙な友人も、愛娘の前では信じられない程デレデレで、おしゃべりだった。僕はなかば呆れながら苦笑し、顔は奥さん似でよかったなどと冗談を言ったりしていた。
食卓を囲みながら、ふと冷蔵庫の陰にオフィスなどで見かけるウォーターサーバーが置かれていることに気が付いた。原発事故の影響を懸念して置くことにした、と奥さんは少し寂しげに話し、哺乳瓶を添えて蛇口をひねった。ふと会話が途切れた。
「でもこんな時代だからこそ…」
ゆりかごを片手でゆっくりと揺らしながら、友人は口を開き、静かに言葉をつないだ。
「この子が大きくなった時に、生まれてよかったと心底思えるようにしたい」
そうしなければ…。
家庭も、そして社会も…。
「うん、そうだな」
僕も頷いた。
その日の帰り道、列車に揺られていると一通のメールを受け取った。
友人からだった。
「今日はわざわざ来てくれて、どうもありがとう。敬には、この娘のこれからをどこかで見守っててほしいです。」
僕は家でメールを読み返しながら、生まれたての命と自分のか細いつながりを想った。
より速く、より多くの人たちと接触できる現代的なつながり方は、同時に儚く、壊れやすくもある。人は安易につながりを断ち、失う。いや、失ったと思い込んでしまう。でも本当は何一つ変わることなく、目の前に在りつづけているのではないか…。
どれほど遠くにいようとも、今日出逢った小さな命を心の片隅でいつも気にかけていたい。そういう風に丁寧に生きてゆけたら、とそのとき強く願った。最近、仕事で後ろ向きな毎日を過ごしていた自分の背中を、少し押してもらった気がした。感謝しなければならないのは、僕の方だ。
ひとりの赤ちゃんが誕生する意味とは、ただこの世に生を享け、家族が増えることに留まらない。もっともっと深く、果てしなく広い。そして時に思いもよらない力が、波紋のようにまわりへと広がってゆく…。
新しい命とのつながりを反芻し、明日もがんばろうと一つ深呼吸すると、枕元の明かりを消した。

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