分厚い手紙|赤ちゃんの沐浴はスキナベーブ

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持田ヘルスケア株式会社

エッセイコンテスト

スキナベーブ 赤ちゃんエッセイコンテスト

【第12回】~ 赤ちゃんへの手紙 ~

特別賞

・分厚い手紙

神田かおり
島根県  主婦  32歳

里帰り出産には、マイナスのイメージしかなかった。実家が遠方にあったし、何より自営業をしている両親がいい顔をしないと思った。それでも他に頼る所もなかったので、迷惑をかけるのを承知で、妊娠9ヶ月のときに実家に帰ることにした。
実家を離れてもう十数年、久しぶりに帰ってみると、年はとったものの、相変わらず元気そうな両親。2、3日の帰省では分からない、久しぶりに感じる、父と母の生活リズム。方言や口癖、賑やかさ。変わったものもたくさんあったけれど、家に流れる空気さえも、何もかもが懐かしかった。そして、愛しかった。
いよいよ出産の日。陣痛が襲ってきて不安でいっぱいになる中、父が車で産院まで送ってくれた。真夜中の、とても寒い日だった。父は、お腹の赤ちゃんに、
「元気に生まれてこいよ。」
と笑いながら話しかけた。それのなんと心強かったことだろう。
母も駆けつけて、出産に間に合わない夫の代わりに立ち会ってもらうことになった。娘が生まれたとき、母は安堵した表情で、
「よく頑張ったね。」
と涙声で言ってくれた。娘の誕生が、こんなに温かいんだと、幸せで胸がいっぱいになった。
生まれたばかりの娘に会いに来た父は、優しく優しく娘を抱っこした。今まで見たことないくらいの優しい表情で。娘はおすまし顔でくぅくぅ眠っていた。きっと父は、私が生まれたときも、同じように優しい目をして、そうっと抱っこしてくれたんだろう。
退院してからしばらくは、母が沐浴してくれた。安定した手つきで、きれいにしてもらった娘は、気持ち良さそうにニコニコして私や母を癒してくれた。きっと、私が生まれたときも、同じように母が大きな手で、私の体を包んで洗ってくれていたんだろう。
私が娘を命に代えても守っていこうと思ったみたいに、きっと私も両親に大切に守られて育ったんだと思う。
あっという間の3ヶ月だった。夫の待つ家に帰る日が近づくにつれて、小さな頃から両親と過ごした、たくさんの思い出や温もりが頭を巡った。そして、布団の中で、すやすや眠る娘を抱いたまま、涙が流れた。今までいろいろ両親に迷惑かけてきたけれど、やっぱり親の愛情にはかなわないなぁ、と改めて思った。
娘は、誕生の喜びを味わわせてくれただけでなく、気づけば親子の絆も深めてくれていた。愛情って、こうやって巡っていくんだと教えてくれた。生まれてすぐの娘に、こんな親孝行をしてもらえるなんて、思ってもいなかった。
そんな娘に、私が最初にできる恩返し。それは、日記だった。娘に、成長の喜びや感動をまるごと伝えたい。そう思い、ノートに娘の出産、成長の様子や私の思いを書き留めてきた。里帰りしている間、夫が娘に会うのが待ち遠しくて、予定よりも早く迎えに来てくれたこと。友だちの家で初めて寝返りが成功して、みんなで喜んだこと。離乳食デビューで、初めてお粥を口に入れた途端、石のように固まってしまったこと・・・。娘の成長をノートに綴るのが、ちょっとした楽しみになっている。
娘が成長したら一緒に読んで、こんなときもあったねぇ、と笑い合えたらいいなぁと思っている。そして、自分は愛情をいっぱいに受けて育ったんだなぁと、少しでも感じてもらえたらいいと思う。これが娘への初めての“手紙”になると思う。
実家から帰る日の日記には、こんなことが書いてある。
“実家であなたと過ごした日々は、1番目の宝物になったよ。ありがとう。おじいちゃん、おばあちゃんも、あなたが誕生して、一緒に過ごせて、幸せだったと思う。だから、あなたが大人になって、良い人と結婚して、赤ちゃんができたら言わせてね。
「赤ちゃんを産むときは、うちに帰っておいで。」”

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