少し遅れた「赤ちゃんへの手紙」|赤ちゃんの沐浴はスキナベーブ

文字サイズ

  • 標準
  • 大

持田ヘルスケア株式会社

エッセイコンテスト

スキナベーブ 赤ちゃんエッセイコンテスト

【第12回】~ 赤ちゃんへの手紙 ~

入選

・少し遅れた「赤ちゃんへの手紙」

埼玉県  主婦  女性  28歳

「よかったらどうぞ。」
1人の高校生が立ち上がり、空いた席を指差した。バッグについている、マタニティマークを見たのではなく、彼は私のお腹を見ていたように思えた。正面にある硝子窓には、お腹の大きな妊婦が写っている。そうだ、私は妊娠しているんだった。もう1人では無いという事を、少しでも忘れていた自分が切なかった。
その日に行われたプレパパママ講座では、最後に、赤ちゃんへ手紙を書きましょうという時間があった。私はなんだか照れくさいのと、何を書いたらいいのかわからず、その時間をぼーっとして過ごしていた。
ふと、隣に座っていた夫、つまり我が家のプレパパを見ると、一生懸命書いているではないか。とても驚いた。普段はそんなに関心のないように見える我が家のプレパパ。うっすら笑みを浮かべながら、まだ見ぬ赤ちゃんを想像しながら書いていた。おまけに少年が描くようなマンガまでつけている。
私はどうしても書けなかった。どんなに想像を膨らませても「ようこそ」とか「ありがとう」とか当たり前の言葉だけが頭をよぎる。本当ならそういう言葉でも良かったのかもしれない。でもその時の私は、自分は冷たい人間なのかも?そんなことを考えていた。
5月20日。出産予定日。どうやらまだ出てくる気配がない。
3日過ぎた。予定日前からそわそわしていたので、既に待ちくたびれていた。その日、母と映画ブラックスワンを観に行った。迫力のある映画だったからか、お腹の赤ちゃんが大暴れしだした。映画のBGMに合わせるように蹴る、殴る、蹴る。どうやら、出てくる気になったようだ。急いで、家に帰り、病院へ連絡し向かった。夜の8時に病院に着き、次の日の朝まで陣痛は続いた。私の場合は、陣痛のたびに吐き気が襲い、まるでマーライオンのように勢いよく吐き続けた。午後2時、陣痛促進剤を打つ。それからはあっという間にお産が進んだ。
午後4時25分、元気な泣き声が廊下まで響いた。
「俺、がんばったよね」とプレパパ改め一児のパパ。
「次回はゼッタイ無痛分娩にする」とママになりたての私。
2人ともまだまだ子供のようだった。親になった人の声とは思えないような出産後の第一声だった。
あれから、、、1年が過ぎた。
娘は、得意げに胸を張ってガニ股で歩いている。ママ、アンパンマン、イヤイヤなど、おしゃべりも増えてきた。髪の毛も増えたし、はにかむ笑顔は最高だ。
私達はというと、、、なんとか親をやっている。
パパは仕事を前以上に頑張っている。たまに朝寝坊をして会社に遅刻しそうなときも、めげずにちゃんと会社に行っている。そして、なにより沢山家族を笑わせてくれる。
ママは、ママらしく片付けが上手くなった。10キロの娘を軽々と持ち上げている。そうそう、あとね、次回出産するときは、やっぱり自然分娩にしようと思っている。どうやら私はとても強くなったみたい(笑)
出産前に書けなかった「赤ちゃんへの手紙」。
今なら、山ほど書きたいことがある。伝えたいことがたくさんある。教えたいことも数え切れないほどある。
前にどこかで、「女性はお腹に赤ちゃんを宿した時に母親になり、男性は赤ちゃんがお腹からでてきてから父親になる」と聞いた。どうやら、私は少しママになるのが遅かったみたいだ。
今なら書ける「赤ちゃんへの手紙」には、「歩みの遅いママだけど、どうぞよろしく」と、最後に綴りたい。
私を「ママ」にしてくれてありがとう。

  • エッセイコンテストのトップへ
  • 受賞者・受賞作品一覧へ