授乳表|赤ちゃんの沐浴はスキナベーブ

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持田ヘルスケア株式会社

エッセイコンテスト

スキナベーブ 赤ちゃんエッセイコンテスト

【第13回】~ 赤ちゃんとのふれあい ~

優秀賞

・授乳表

116票
北岡久美子
熊本県  主婦  32歳

「じゃあ、何かあったら呼んで下さいね」
オムツの代え方と母乳の吸わせ方を簡単に説明すると、看護師さんは行ってしまいました。
仮死状態になり吸引でようやく生まれた息子。
二人きりになった瞬間の緊張と不安は、今でも忘れられません。
こんなに早く子育てが始まるとは。正直、もう少しゆっくりさせて貰えると思っていました。
さっそく泣き出す息子に、おそるおそるおっぱいをくわえさせましたが、痛いばかりで、何か出ているのか、よく分かりませんでした。
そう、ここから、幸せな幸せな子育て・・ではなく、地獄の時間が始まったのです。
後になって知りましたが、ここはおっぱい指導に関して、かなりのスパルタ病院でした。長時間、私を休ませることなく、すぐに授乳をさせたのも、その為です。
しかし、子供が生まれたからと言って、必要な分だけ、母乳がびゅーっとでるわけではありません。という事も、その時知ったのですが、吸わせても吸わせても、乳首がじわりとしめる程度にしか母乳はでませんでした。
もちろん、息子はお腹が空いて泣きます。泣き止むのは、乳首を口にふくんでいる時間だけです。たまらずナースコールしました。
「全然、泣き止まないんです。」
するとベテラン婦長さんが言いました。
「大丈夫。赤ちゃんはね、お母さんのお腹から、お弁当持って生まれてくるのよ。母乳が出始めるまでの何日か、おっぱい飲めなくても、大丈夫。」
なぜか、婦長さんが部屋にいてくれるだけで、ほっとしましたが、「じゃ、とにかく吸わせて」と言って行ってしまうと、とたんに不安で悲しくなりました。
言われたとおり、とにかく吸わせ続けますが、息子を支える腕と首がパンパン。途中、乳首の先が切れて出血し始めると、そこを吸われる激痛がさらに私を弱気にさせます。
もう、本当に、辛くて、産後3日間は、私も赤ちゃんと一緒に泣き続けました。お見舞いにきた人が驚くほど、目ははれ上がり、やつれていました。
この顔を見れば、何か、手を差し伸べてくれるかもしれないと、ナースコールしますが、いつも答えは一緒です。
「水分、1日2リットル。ご飯をしっかり食べて、あとは、頑張って吸わせて!」
言われたとおり、毎日2リットルのお水を飲みました。ひたすら吸わせました。
4日目の朝、明らかに昨日までとは違い、おっぱいが固くなっている事に気づきました。
「きた!」
ぎゅっと押してみますが、にじみ出る量は、昨日までと変わりません。その後、看護師さんが来て、中ででき始めた母乳をしっかり出すための、マッサージをしてくれました。
これもまた激痛でしたが、ぽたぽたと落ち始める母乳が嬉しくて、痛い痛いと騒ぎながらも、ずっと笑っていました。
マッサージが終わり、もう一度、吸わせてみると、息子ののど元が昨日までとは少し違う音をたてています。
この日の夜、私ははじめて3時間、寝ることができました。
そして、退院の日。
びっしりと書き込まれた授乳表を手渡されました。
「これはお母さんが頑張った証ですよ。よく頑張りましたね。」
私はとても誇らしい気持ちで授乳表を受け取り、息子のおでこにキスをしました。
「一緒に頑張ってくれて、ありがとう。」
あれから8年。未だに、その紙は私の宝物です。

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