衛生ボーロ|赤ちゃんの沐浴はスキナベーブ

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持田ヘルスケア株式会社

エッセイコンテスト

スキナベーブ 赤ちゃんエッセイコンテスト

【第13回】~ 赤ちゃんとのふれあい ~

入選

・衛生ボーロ

東京都  派遣社員  男性  40歳

結婚はしたが、子供をつくる気はなかった。
妻のことは心から愛していたが、「子供が欲しい」という心境にどうしてもならなかったのだ。
結婚する前もした後も、私は非正規で働いていた。正社員として整った環境のもとで働いているわけではなく、驚くほど安い時給で毎月をしのいでいた。
(時給で働いている自分なんかには、子供をつくる資格はないよな)
そんな思いが私の中にあったのだ。おそらくずっとこの思いを抱えたまま生きていくのだろう。そう感じていたので、私は子供のいない生活が当然のことだと思っていた。
そんなある日、妻と二人でデパートに出かけた。ちょうど昼時であり、二人ともお腹が空いたので、レストラン街で食事をすることにした。日曜日のレストラン街はとても混んでいて、私たちが入ったレストランも、満席だった。
「ただいま満席ですので、お名前を書いてしばらくお待ち下さい」
店員さんにそう指示されたので、名前を書いて店の前にある椅子に座った。
すると、すぐ後から来た夫婦が私の隣に座った。その若い夫婦はベビーカーに赤ちゃんを乗せており、まさにこれから家族の歴史が始まろうとしているようだった。
(これが赤ちゃんか・・・)
私はそんなことを思いながら、ぼんやり赤ちゃんを眺めた。赤ちゃんは眠っておらず、
目をぱっちり開いて私のことを見ていた。小さい手に小さい爪がある。その手でお菓子の袋を抱きかかえていた。「衛生ボーロ」と呼ばれるお菓子だった。こういうのを与えておけば赤ちゃんはしばらく大人しくなるのだろう。
すると、突然、赤ちゃんが手に持った一粒の衛生ボーロを私に手渡してきた。正確に言えば、衛生ボーロを持った手を伸ばして来たのだが、私には、赤ちゃんが私に衛生ボーロをくれようとしているように見えた。
私は反射的に、赤ちゃんから衛生ボーロを受けとってしまった。若い夫婦になにか言われるかなと心配したが、夫婦は笑ってそれを見ていた。
赤ちゃんから衛生ボーロを受け取った時、私は言いようのない幸福感を感じた。名前も知らないし言葉も通じない相手である。性別すら分からない。それでも、その子の驚くほど小さい手に触れた瞬間、私は嬉しくて満面の笑みを浮かべてしまったのだ。
動物の赤ちゃんは可愛い。外敵から攻撃されないために、神様が可愛くつくったのだそうだ。友達から聞いた話であり、ウソか本当か分からない。
一つ言えることは、赤ちゃんにはパワーがあるということだ。赤ちゃんから衛生ボーロをもらった瞬間、私は自分が非正規で働いていることも忘れ、(子供が欲しい!)と強く思ったのだ。
赤ちゃんには、非正規で働く人に勇気を与えるパワーがある。それは赤ちゃんでしかできないすごさだと思う。
私たち夫婦に赤ちゃんかできたら、ぜひ衛生ボーロを持ってお出かけしたいと思う。
なんとなく、誰かを元気にできそうな気がするから。

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