「赤ん坊は天使!お年よりは仙人!」|赤ちゃんの沐浴はスキナベーブ

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持田ヘルスケア株式会社

エッセイコンテスト

スキナベーブ 赤ちゃんエッセイコンテスト

【第2回】~ 赤ちゃんが教えてくれた喜び ~

佳作

・「赤ん坊は天使!お年よりは仙人!」

【一般部門】
石綿 史門
群馬県  学生  15歳

今年、ナッちゃんが赤ん坊を産みました。ナッちゃんは、イトコの中の一番の年長者で、一番年少なのが僕になります。ナッちゃんのお腹に赤ん坊が出来たと分かった時、僕の家では大騒ぎとなりました。ことに、祖父と祖母の喜びようと言ったら、それは大変なものでした。「ひ孫」と対面するのですから無理もないことです。この祖父と祖母。二人ともそろそろ八十歳になろうかというほどの「完璧な老人」のはずです。しかし、このニュースが飛び込んで来てからの、二人のパワーがすごかったのです。
まず、祖父は物置き小屋の奥から、古めかしいベッドを取り出して来ました。何でも、このベッドは、ナッちゃん用に買った物で、その後、四人の孫たちが使ったということです。勿論、僕もこのベッドで眠ったはずなのですが、見るからに古めかしく、これを使うのでは、産まれて来る赤ん坊が余りにも可哀相だという気がしました。
「ベビーベッドって、そんなに高価な物なの?きっとナッちゃん、こんな物じゃイヤがると思うな。新しいの、買ってやんなよ。」
「このベッドを使った子は皆、元気で良い子に育つんだ。また元気に育つだろうよ。」
僕の言葉をさえぎるように、祖父は言いました。いつもは気前が良く、僕の欲しい物は何でも買ってくれるのに、なぜなんでしょう。
「爺ちゃんって、案外、ケチなんだね。」
祖父は笑いながら、ベッドの部分一つ一つをていねいに水洗いしていました。
翌日、祖父の様子を覗きに行くと、汗ビッショリになってヤスリをかけていました。色がまだらになったベッドは、前にも増して、見すぼらしくなってしまいました。
「余計に汚なくなってるんじゃん!」
「まあ、黙って見ていてごらん。」
本当に、これを使うつもりでしょうか。生まれたばかりの赤ん坊が、あんな汚ないベッドに寝せられるのかと気掛かりでなりません。ニ、三日後、僕の目の前に現われたのは、真っ白のきれいなベビーベッドでした。ヤッパリ新しいのを買ったんだと思いましたが、横のプラスチック部分に見覚えがあります。色を塗り替え、マットを張り替えたのです。
「爺ちゃん、すごいよ。まるで新品だよ。」
祖父は左手を腰に当てて、腹をプゥーと大きくふくらませました。得意な気分になった時の、祖父のお決まりポーズです。祖父が古いベッドにこだわったのは、自分の手を掛けたことで何かを願い、何かを伝えたかったのだと、その時、僕は感じたのでした。
一方、祖母だって負けてはいません。編み物の得意な祖母は、いつも僕たちにセーターなどを編んでくれていましたが、皆が成長して、祖母の編んだ服に見向きもしなくなっていたのです。誰れも着てくれず、きっと張り合いのない寂しい思いをしていたことでしょう。そこに、この「ひ孫」の知らせです。祖母の製作意欲は一気に盛り上がりました。真っ白な極細毛糸を指にからめ、二本の細い棒で一目ずつていねいに編んで行きます。小さな老眼鏡を鼻に乗せ、チョッピリ曲がりかけた背中を、なお一層丸く屈めて、無心に編み続ける祖母の姿は、感動的で胸が熱くなります。おくるみ、帽子、手袋etc可愛い作品はどんどん仕上がって行きます。祖母は、それらを家族や茶飲み友達に披露することで、まだ腕の落ちていないことを確認したようです。今では、祖母の熱が回りに波及して、近所のお年寄りの間で編み物がブームになっているというのですから驚いてしまいます。
それから何ヶ月が経ったでしょうか?祖父は木馬や数々のおもちゃを完成させました。祖母も、五歳ぐらいまでは間に合うと感じるほどの量を編み上げました。又、デパートへ行くたび買い集めたベビー用品も、沢山そろいました。二人は、それぞれの方法で、ナッちゃんと「ひ孫」に愛情を示したのだと、僕は思いました。
お産を目前に、ナッちゃんが戻って来たというので、これらの品を届けに行きました。大きなお腹のナッちゃんは、妙な感じでしたが祖父母は目を細めて嬉しそうでした。
その後、何日ほど経ったのでしょうか?
ナッちゃんが、夜中に入院したという知らせが入りました。僕は一日中、授業に身が入らず、部活も早目に切り上げて家に帰りました。祖父母は朝と同じ状態のまま、落ち着かない様子を続けています。お産は長引き、結局、翌日のお昼近くになって、ナッちゃんは、やっと男の子を産んだのでした。
「あの子が、子供を産むなんてネェ。」
祖母は、ホッとした表情で、そんな言葉を繰り返します。涙も止まらないようです。ナッちゃんは、生まれた時が大きかったそうで、そのズッシリとした重さを、祖父は今でも腕に覚えていると言います。二人は、いつまでも長い間、ナッちゃんの赤ん坊の頃を懐しそうに話していました。ナッちゃんが母親になった、こんな時に、何でそんな話をするのか僕には理解できませんでした。
赤ん坊に初めて対面するまでの四日間は、非常に長く感じました。ナッちゃんの病院まで、車で一時間半程かかります。
「あの子が、子供を産むなんてねェ。」
また、祖母が何度もつぶやきます。
ナッちゃんは、とても元気そうでした。でも、赤ん坊を産んだというのに、お腹はまだ大きいままで、僕は少し心配になりました。
面会時間が来て、いよいよ赤ん坊の登場です。全面ガラスの前は、大勢の人が集まりました。カーテンがスルリと開き、小さな透明ベッドに寝ている赤ん坊が十二人。どれがナッちゃんの子でしょう?一番早く探し当てたのは、やはり祖母でした。ナッちゃんの赤ん坊の頃に似ていたようです。一番大きくて、一番図太そうな顔つきの子です。回りは皆、泣いているのに、たった一人眠っている、あの赤ん坊だと言うのです。僕は、思っていたのと違う顔なので、少しガッカリしました。でも、祖父と祖母は優しい表情で、その子を見つめています。泣き虫な祖母は、ここでも涙が止まりません。あの赤ん坊は、二人の血をしっかりと受け継いでいます。そんな感激での涙でしょうか?二人は対面時間が終るまで、嬉しそうに見続けていました。いつも元気で、意欲的に生きる僕の祖父と祖母。この「ひ孫」の誕生で、さらにパワー・アップを感じさせてくれました。あの子なら、白いベッドも、手製の服も、良く映えると思いました。
僕は、ガラスの向こうの赤ん坊にメッセージを送りました。
「君のおかげで、二人はまた、生きる張り合いが出来たようだよ。生まれてくれて、本当にありがとう。」
今日、僕はつくづく実感しました。赤ん坊もお年寄りも、側にいるだけで回りをいつも幸福な気分にしてくれます。だから、「赤ん坊は天使!お年寄りは仙人!」なんだと…。

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