朔也のいる風景|赤ちゃんの沐浴はスキナベーブ

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持田ヘルスケア株式会社

エッセイコンテスト

スキナベーブ 赤ちゃんエッセイコンテスト

【第3回】~ 赤ちゃんのいる風景 ~

入選

・朔也のいる風景

【一般部門】
男性  33歳

『なおちゃん、なおちゃん』微かな声が聞こえる。「今、何時だ?」午前2時。未だ起きるには早すぎる。少しの間ぼーっとしていると、又声が聞こえる。『なおちゃん、なおちゃん』
妻は朔也(さくや)の夜中の寝かし付けに失敗すると、必ず横で寝ている僕を起こす。
『朔也が寝てくれへん』
ちらりと横を見ると朔也が泣いている。
ともかくこういう場合、妻は非常に眠たい時なのだ。こっちもかなり眠たいのだけれど、ここで適当な返事をするといつもと同じ。夜の静寂に少しだけ亀裂が生じて朔也の泣き声が一瞬止まる。「またやっちまった!」お互いこれは本意では無い。
取りあえずお決まりのおむつの確認だ。ロンパースごしにおむつを触ってみる。じっとりと重い。新しいおむつを取り出してティッシュとおしりナップを手元に寄せる。準備OK。そんな感じだ。いざおむつのマジックテープに手をかける。
「ちくしょう!うんちかよ!!」軽く舌打ちする。くじでいえばハズレだ。もちろんこの場合おしっこが当たり。朔也は今月で10ヶ月。歩けはしないものの高速ハイハイができる年月。夜だろうがそう簡単におむつ替えに応じてはくれない。こっちがおしりをふいている間に、くるりと回転したり、おすわりをしたり。。大体、赤ちゃんに使う力の加減が未だもってこっちもはっきりしないものだから、いいようにあしらわれてしまう。それでもやっとのことでおむつ替えが終わる。この頃には妻も正気を取り戻していている。
バトンタッチ。昼間は別として夜の朔也は僕に抱かれて寝る事は少ない。何が違うのか目をつぶっていても僕が抱っこをすると決して泣き止まないが妻に変わるととたんに泣き止んだりする。これが母親というものだろうか?分かっていてもなんだか複雑だ。やっと落ち着いた朔也を抱っこしながら僕らはお互いを見やって少しだけ話をする。
『楽になったね』『うん、本当に楽になった』
『去年の今頃はこいつ、いなかったのにまるで我がもの顔でいるね!』『うん、間違い無く私達の中心にいるね!』
親への感謝が沸き起こる瞬間。だけど僕には少し遅い。。
こんなたわいの無い会話が夜の3時頃に繰り返される。もう10ヶ月以上も続く僕らのしんどくて幸せな習慣だ。もし僕がこの夜のイベントにうまく乗れなくてもやっぱり最後はこんな感じ。朔也が居なかった時には決して無かった時間。
そんな僕らが何度目かの夜の眠りにつく前に、僕はこんな事を考えたりする。朔也が存在するという幸せを噛みしめる一方で、僕らは愛するが故に生ずる不安を得てしまったということを。だからこそなおさら朔也を愛おしく思う。こんな事を真面目に考えると少しだけ眠れなかったりする。
朝6時。そんな事もお構い無しに朔也が泣き出した。「正確やな」そう思いながら僕は眠たい目をこすりながら起きる。「そういえば4時には泣かなかったな」後で聞くとしっかり泣いていたらしい。「すいませんね、お母さん」
いつもより少しだけ長くなった朝。出勤の用意をしていると、四つん這いの朔也がこっちに向かってくる。100%の笑顔を振りまきながら、僕の足元につかまり立ちする彼を見て、言い様のない幸福感に包まれる。
「僕らの元に生まれて来てくれてありがとう」自然と沸き起こるそんな感情を押さえきれず、両脇を抱えて目の前に寄せる。「行ってくるね」そっと呟く。2人に見送られる楽しさを妻は知らない。これは僕だけが味わえる毎日の楽しみなのだから。。

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