大きいちゃんとちっちゃい君|赤ちゃんの沐浴はスキナベーブ

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持田ヘルスケア株式会社

エッセイコンテスト

スキナベーブ 赤ちゃんエッセイコンテスト

【第5回】~ 赤ちゃんと笑顔 ~

入選

・大きいちゃんとちっちゃい君

【一般部門】
兵庫県  自営  51歳

母88㎏、息子2,700g、今から21年前の6月27日、小さな町の小さな産院でその子は生まれました。
その日、88㎏の母が破水後、ドスドスと大慌てで、入院した産院は妊婦がただ一人と言う貸し切り状態でありました。けれども第二子であるという余裕も手伝ってベットに陣取った彼女が新聞を読みつつおにぎりを頬ばっているうちに院内がにわかに慌ただしく騒がしくなってきました。「どうしたの?」とまん丸の顔に精一杯の緊張感をこめて88㎏が助産婦さんに聞くと、彼女は声をひそめて「今日、もう一人お産の人がいるんだけど、何しろ小柄な人で、元々40㎏ないのよ。それがお腹が凄く大きくなってね、あれは難産になるわね。ホントあなたはよかったわよ。順調で、体重…、イヤ、体力も十分ありそうだしねえ。」88㎏は傷ついた女心を隠しつつ「大変だね。でも、もしかしたら同じ日に生まれるかもね。出てくる赤ちゃんはどんな子供たちかなー。楽しみだー。」と脳天気なことを呟いて、次のおにぎりに手をのばすのでありました。
けれども、時は刻々とたっていき、さすがの脳天気88㎏も陣痛がはじまって、「すみませんけど御主人も運搬手伝って下さい!」との先生の呼びかけに再び女心を傷つけられながら第二分娩室へと消えていったのであります。助産婦さんの予言通り88㎏は並々ならぬ体力を駆使し、堂々たる体躯から2,700gのちっこいちっこい嬰児をあっという間に産み落とし「御主人!もう一回頼みますー。」というかけ声と共に再び病室に帰ってきたのでありました。今や晴れて85.3㎏になった彼女は、「いーっこも変われへんなあ」という旦那さんの感無量の言葉を無視しつつ、ぽよぽよの雛鳥のような毛をしたちっこいちっこい男の子を横に寝かせて大満足でありました。
しかしその間も第一分娩室では壮絶な闘いが繰り広げられていたのでした。それは夜になっても終わりませんでした。うめき声、「輸血!輸血!」という叫び声、家族の必死の励ましの声等が延々と続いて、さすがの脳天気も手をあわせ、何とぞ、無事に生まれますようにと心から祈らずにはいられない程、緊迫した時間が過ぎ去った後、ようやく真夜中を目前にして、その赤ちゃんは産まれたのでした。母38.1㎏。女の子4,900g、6月28日のまぶしい朝の光の中、保育室には、めでたく二人の嬰児が堂々と細々と並べられておりました。4,900gしわひとつない張り切ったまん丸の女の子がドーンと。しわしわのぽよぽよ男の子がへにょっと。その日から見舞客は十人が十人とも85.3㎏が女の子のママであり、2,700gのママは38.1㎏であると思いこんで、その誤りを正すのには、両家はもとより看護婦さん、助産婦さん、果ては掃除のおばさんにいたるまで、うんざりすると言った具合でありました。
しかし、やはりDNAというものは侮れません。ちっこかった2,700gの内々には85.3㎏の恐るべきDNAの炎が受け継がれており、一週間の入院の間にグビグビツとミルクを飲み続けると、とうとう新生児用の哺乳瓶一本では足らなくなりました。一本を飲み干すと「ウイーツ」といって足でそれを蹴り倒し二本目を催促するという有様は、後々の産院の伝説として語り継がれたそうであります。
あの日からはや21年あの女の子はどうしているでしょうか、堂々たるグラマーガールに育ったか、はたまた楚々とした手弱女となりにしか。
どちらであっても同じ時、同じ場所でこの世に生を受けしもの同士、幸せであって欲しいと心から願うのです。
今、横で三杯目のご飯をかっこんでいる88㎏の我が息子を眺めながら、人の世の不思議さとおもしろさを思いつつ。

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