ありがとう、天使ちゃん。|赤ちゃんの沐浴はスキナベーブ

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持田ヘルスケア株式会社

エッセイコンテスト

スキナベーブ 赤ちゃんエッセイコンテスト

【第8回】~ 赤ちゃんとわたし ~

入選

・ありがとう、天使ちゃん。

北海道  主婦  32歳

「結婚は絶対に許さない」
九州にいた私は北海道に住む彼との結婚を両親に反対されていた。そんな中で娘を授かった。私を遠くに嫁がせたくない両親にこの妊娠をどう報告しようか。最愛の人の子供を授かった喜びと大きな心配事を同時に抱えた私の胸は潰れそうだった。
両親に告げられないまま、産婦人科へ初めて行った時のこと。エコー画像の中で、小さなものが「ぴょん」と飛んだ。エビの赤ちゃんみたいな生き物が「見て見て!」とぴょんぴょんしている。元気な命。ああ、私と彼の赤ちゃんだ。そう思ったら涙がはらはらと流れた。
「嬉しいの?」
と驚いたような看護師さんに、私はためらいなく
「はい」
と答えた。
小さな命に勇気と自信を与えられた私と彼は、どうしても結婚を許してほしいこと、新しく授かった命を祝福してほしいことを両親に伝えた。心配して止まない両親に、彼は、
「10年後を見てください」
ときっぱりと言った。そんな私達に初めはショックを受けていた両親だったが、最後は、
「もういいから。10年後の幸せを楽しみにしている」
と笑ってくれた。
大きくなる私のお腹と共に、家族の笑顔も増えていった。「大事にしなきゃ」を繰り返してくれる両親。「遠くからお嫁に来てくれてありがとう」と労ってくれる彼の両親。慣れない雪国での妊娠生活を安全に快適に過ごせるように、毎日雪かきに精を出してくれた彼。私はみんなに応えて無事に赤ちゃんを産みたいと願いながら、幸せな妊娠期間を過ごした。
予定日の深夜に破水した私は、陣痛促進剤を点滴してのお産となった。
「何、この痛み!」
痛いとは聞いていたけれど、こんなに痛いなんて。こんなに痛くても人間って生きていられるものなの?
「ちょっと休憩していいですか?」
そんな不可能なことを言ったり、妊娠したことをうっかり後悔しそうになりながらも、必死に腰をさすってくれる彼に励まされ、どうにか分娩台まで辿り着いた。
助産師さんのリードで何度かいきんだ後、
「あと何回ぐらいいきんだら産まれますか?」
と尋ねると、助産師さんはこう応えた。
「あと10回くらいかなー・・・」
えー!?嫌だ!無理だ!早く産みたい!そんな思いを込めた渾身のいきみの後、助産師さんが驚いたように、そして笑って言った。
「ごめん、次でもう産まれるわ」
彼にしっかり手を握ってもらい、記憶も残らない程の力をふりしぼったいきみで、私は娘をこの世に送り出した。
頭が出た瞬間から泣いてくれた娘。ぱっちり二重と少し上向きの鼻は、おかしいほど彼そっくりだった。
退院後、遠く九州から来た母は、毎日にこにこしながら娘と私の世話をしてくれた。
「パパですよー」
溶けそうな声で娘に語りかける彼を、
「いいお父さんね」
と、おかしそうに眺めていた。
すくすく育つ娘との生活は本当に笑顔満載。こんな小さな娘の大きな力は底知れない。反対された結婚も、地元から遠く離れた場所でのお産も、そして人生最大の恐怖の痛みも、全部を素晴らしい思い出に変えてくれた。過ぎた心配を重たいと感じていた両親のことも、今は心からありがたく大事にしたいと思える。
そして、精一杯の努力で結婚と出産を仕切り守ってくれた彼は、この10ヶ月で頼もしい私の旦那様になった。「恋人」から「夫婦」へ。エビのようだった娘がかわいらしい赤ちゃんとなって私達のところへ来てくれた時、私達二人の間にかけがえのない絆も生まれたのだ。
娘は我が家の幸せを握って産まれてくれた。
「パパとママが夫婦になれますように」
そんな使命を背負って、ぱたぱた羽ばたきながら来てくれた天使なのだと思えてならない。
私達のところへ来てくれて本当にありがとう。娘を眺める度にこの言葉が浮かんでくる。同時に、支えてくれる家族への感謝の気持ちも新たにする毎日だ。
家族に感謝。娘に感謝。神様に感謝。毎日の幸せに感謝。本当に産まれてきてくれてありがとう。

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