笑顔のバトン|赤ちゃんの沐浴はスキナベーブ

文字サイズ

  • 標準
  • 大

持田ヘルスケア株式会社

エッセイコンテスト

スキナベーブ 赤ちゃんエッセイコンテスト

【第9回】~ 赤ちゃんと笑顔 ~

入選

・笑顔のバトン

東京都  主婦  36歳

午前中の比較的涼しい時間に、ベビーカーで近所をぐるりと散歩するのが私達の日課だ。季節の花などを眺めながら、ゆっくりのんびりと歩く。
いつものように散歩していると、おばあさんに声をかけられた。「まあ、かわいい赤ちゃん。見せてもらってもいい?」「もちろん、どうぞ。」とベビーカーから娘を抱き上げた。「この輪ゴムをはめたような手首がかわいらしいのよねぇ。」とおばあさんは娘の腕をさすりながら、目を細めた。「この歳になるとね、あんまり笑うってことしなくなっちゃうんだけど、赤ちゃんを見ると自然にこっちまで笑顔になっちゃうわよね。」とおばあさんは笑顔で言った。私はふと5年前に亡くなった祖母のことを思い出していた。
5年前の夏、祖母は病を患い、入退院を繰り返していた。お見舞いに行ったある日のこと、祖母に少しでも元気を出して欲しくて、「面白かったから、気分転換に見てみたら?」と祖母の気に入りそうなテレビ番組を薦めてみた。しかし、祖母は沈んだ表情でこう言った。「もう体も気持ちも重たくって、何を見ても、おばあちゃんは、面白いなんて気持ちにならなくなっちゃったのよ。」確かに病状はかなり進んでいたので、テレビくらいで気分なんて紛れるような状態ではなかったのだと思う。でも、はっきりとそういう風に言われてしまうと、悲しかった。どうにか一瞬でも、祖母に明るい気持ちを持って欲しかった。そんなことを思いながら、次にお見舞いに行くときに、当時1歳半だった娘も連れて行った。
娘を見るなり、祖母は笑顔を見せてくれた。「まあ、こんなに大きくなったの。もう歩けるようになって。まんまるのおめめでかわいいわねぇ。」娘の体のあちこちをさすりながら、嬉しそうに笑ってくれた。そんな祖母の笑顔、そして祖母に向けられた娘の笑顔を見て、私は胸が熱くなった。病院のお見舞いの帰り、私は娘にお礼を言った。「おばあちゃんを元気づけてくれてありがとう。」と。娘にその言葉の意味はわからなかったかもしれないが、祖母に笑顔を取り戻してくれた娘へ私はどうしてもお礼が言いたかった。
そんな娘も今は6歳になり、今年我が家にもう一人、娘が増えた。この子を祖母に見せてあげることはもうできないが、きっと天国からにこにこと見守ってくれているだろう。そして、この子の笑顔も上の娘の時のように、これからどんどん周りの人を笑顔にしてくれるのだろうと思う。
「結構重いですけど、抱っこもしてみますか?」おばあさんに言ってみた。「本当?いいの?」とおばあさんは嬉しそうに娘を抱き上げた。「赤ちゃんって不思議ねぇ。結構重たくてずっしりしているのに、抱き心地はなんだかふわふわしていて、気持ちいいのよね。抱っこしているとあったかい気持ちになるわ。」娘は、あやされると笑い声をあげ、おばあさんのネックレスにしきりにちょっかいをだしながら、おとなしく抱っこされていた。
娘の存在が、笑顔が、見知らぬおばあさんを笑顔にし、一瞬でも温かな気持ちにさせた。そして、そんな光景を目にした私の気持ちも温かくなり、思わず笑顔になる。まるで、笑顔のバトンだ。運動会のリレーのように次から次へ笑顔を繋いでいる。そんなバトンが一人でも多くの人に渡っていくといいな、と思う。
おばあさんと別れ、散歩を続ける。公園にひまわりが咲いていた。ひまわりを指差し、「きれいだね。」と娘に話しかける。娘はひまわりのような笑顔でにっこりする。また娘からバトンを渡されてしまった。このバトン、次に私は誰に繋いでいこう?

  • エッセイコンテストのトップへ
  • 受賞者・受賞作品一覧へ