持田ヘルスケア株式会社

スキナベーブ エッセイコンテスト

【第10回】
~ 赤ちゃんとの記念日 ~

特別賞

おっぱいのソコヂカラ

青山恵梨子 東京都  主婦  24歳

能天気な妊婦だった私にも、ひとつだけ心配なことがありました。
それは、いつまでたっても極小な自分の胸。
「妊娠中、バストは授乳に備えて大きくなります」
「お風呂に入ると、母乳が出てくるプレママさんもいます」
なんて育児書には書いてあるけど、私のおちちはうんともすんとも言わないまま臨月を迎えていたのです。
私は昔から典型的なまな板体型で、もちろんブラカップは堂々のA未満。妊娠当初は「胸が大きくなるなんて楽しみだなぁ」なんて呑気に構えていたのですが、出産が近づき、一向にサイズの変わらない自分の胸にだんだん焦りを感じ始めました。
この貧乳から、果たして母乳なんて出るんだろうか。
生まれてくる赤ちゃんには母乳を飲ませてあげたい。けれどこんな胸じゃ授乳なんて出来ないかもしれない。出産まで1ヶ月。その間に母乳の出る徴候があるかもしれないと自分を励ましてはみたものの、そんなものは少しも現れず、これでいきなり母乳が出てきたら奇跡だと思っていました。
そして迎えた2009年3月9日。
パパやおばあちゃん、みんながお休みだった春の日に、10ヶ月を一緒に過ごした赤ちゃんが私たちの前に元気な姿を見せてくれました。
初めて抱きしめる、小さくて頼りないふにゃふにゃの体。
分娩台の上で生まれたてホヤホヤの我が子を抱いて(というか体にのっけてもらって)しみじみしていたら、「さ、じゃあ初乳のませてみましょうか」と助産師さん。
初乳?
「いやー、そんなん出ませんよ」って笑ってたんですが、「出るんだなーこれが」とマッサージされると、みるみるうちに母乳らしきものが!
え、出た。
驚いて固まる私の前で、てきぱきと息子を定位置にセットする助産師さん。そして何の躊躇もなく目の前に出てきたおっぱいにかじりつき、ちゅうちゅう吸い始めた生まれたての息子。
え、吸った。
もうびっくりしすぎて、見物するしかない私。なんだか出産って、超常現象です。最初から最後まで不思議なことだらけ。何に驚いたらいいのか分かりません。
初めての授乳はくすぐったくて、みんなの前でお乳をあげるということが少し恥ずかしくて、けれど「私はママになったんだ」と強く思いました。
初乳は甘くて、溶けたバニラアイスみたいでした。
あれから1年。
ハイテンションで走り回り、何もないところで突然転び、その後号泣しながら私のTシャツをまくりあげる、1歳になった息子。
自分で探し当てたおっぱいにかじりついて数分後、「アハッ」と言いながら見せてくれる満面の笑みに、私もつられて笑ってしまいます。
1歳を越えたあたりから授乳量は少しずつ減ってゆき、一時はグラビア級に大きくなった胸も、それに比例して小さくなってゆき、私のおちちは懐かしい元の姿に戻りつつあります。
昔はあまり好きじゃなかった自分の胸。サイズが元にもどってしまうのは正直少し淋しいですが、今はない胸を堂々と張って歩いています。
私の隣を一生懸命歩く、この小さな我が子の体と笑顔を育てたのですから。

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