持田ヘルスケア株式会社

スキナベーブ エッセイコンテスト

【第6回】
~ 赤ちゃんが教えてくれた喜び ~

優秀賞

赤ちゃんに逢いたい!

【看護師助産師部門】89票 福田 紀子 北海道  助産師  32歳

「ふぅぅ~でないっ!!」
分娩台の上で、彼女はたまらず呟いた。
赤ちゃん誕生の数分前だった。
彼女とは高校時代、ソフトボールを通じて仲間となり、今でも付き合いのある大切な友達だ。私が将来、助産師になりたいと熱く語った時は、「赤ちゃんを取り上げてもらうなんて、恥ずかしい。」と言っていたのに、結婚し、妊娠した時は迷わず私を指名してくれた。
その妊娠の報告を受け、私の担当になった彼女の妊娠経過は順調そのもので、時には飛行機に乗って、「赤ちゃん生まれたら行けなくなっちゃうから、」と本州の友人に会いに行ってしまう程だった。
そうして臨月に入った頃、病棟勤務の私は少し緊張していた。なぜなら決められたシフトの中で、お産はいつ始まるか分からない。夜はいつでも出動できるように、枕元に携帯電話を常備する日が続いた。しかし、予定日を過ぎても私の携帯電話には、嬉しい第一報は届かず、そこから一週間を過ぎたところで、彼女は誘発分娩で入院することになった。
初めての入院、予想外の薬を使っての分娩。後で彼女は、このとき不安で一杯だったと振り返っている。私には待ちに待ったその日がやってきた。
朝、私が出勤してきた時には既に、内服薬で軽く陣痛がつき始めた頃だった。すぐに夫を呼び、本格的に点滴を使って誘発分娩が始まる。点滴の量が徐々に増えるたびに、彼女の辛そうな声も増えていく。その声に合わせて夫は、リズムを取って呼吸をリードする。さすが、北海道名物のヨサコイソーランに毎年出場している夫婦だけあって、息はピッタリだ。私は産痛ケアをしながら、ただただ彼女に寄り添った。足のツボを押し、暖め、体をさする。私は無言だった。夫が絶えず声をかけ続けていたから。
その後順調に経過し、いよいよ破水!出産のゴールが見えてきた時、
「ふぅぅ~でないっ!!」
分娩台の上で、彼女はたまらず呟いた。
私にはその時の彼女の言葉が、「早く赤ちゃんに逢いたいよー!」と聞こえた気がした。それから数分後、赤ちゃんの頭が出た瞬間、赤ちゃんは、目をパチパチキョロキョロさせていたのだ!あたかも「お母さん?お父さん?どこにいるの?」とでも言っているかのようだった。しかも、赤ちゃんはその体が全てでないうちから、私達に産声をあげてアピールしたのだ!すると彼女も、それに答えるように「かわいい!」と呼びかけ、赤ちゃんをキスでこの世に迎え入れた。
夫婦が父母となって、互いに協力して赤ちゃんを迎える。赤ちゃんも、それに体全部で“生”をアピールする。分娩って、なんてステキな瞬間なのだろうと、いつも体が熱くなる。しかも、それが長年付き合いのある友達の、家族としてのスタートならなおさらだ。私は、彼女とその家族に心から「おめでとう!」を伝えた。

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