持田ヘルスケア株式会社

スキナベーブ エッセイコンテスト

【第8回】
~ 赤ちゃんとわたし ~

特別賞

ありがとう、大好きだよ。

藤原美幸 岡山県  主婦  32歳

「9時半になったらプールに行こうね。」
朝日の差し込む部屋で助産師さんが私に言った、もう限界だ。
時計を見ても見ても時間が経たない、最後に時計を見た時9時20分だった。
本格的に痛くなって3時間、病院に来て2時間だった。
かなりのスピードで子宮口は全開になったらしい。
しっかり読み込んで覚えた呼吸法もイメージトレーニングも何もかも早すぎる展開についていけず役に立たない。
いよいよ我が子との対面が近づいてくるのが分かる。
ビックウエーブが私を再び襲った。
もうだめだ~!!と思った瞬間、天の声。
「よし、プールに行こう。」
両肩を支えられ、待ちに待った水中出産をする為にプールの部屋へ自力で歩く。
ドアを開けた時、これから入る大き目の浴槽が目に入った。
もう自力で服を脱ぐ事すら出来ず、助産師さんに脱がしてもらった、もう立っているのも辛く浴槽のふちにつかまった。
お湯に浸かる為、足を上げた瞬間、、、。
パシャ!!っと勢いよく破水。
割れる感覚がはっきりとした。
「タイミングのいい破水だね~。」
助産師さんは感心しながら産む体制に入る。
その時、廊下で待機していた夫と実家の母の入室が許された。
母は助産師さんの隣を陣取り実況中継。
夫は少し後ろでビデオカメラを回す。
「すごい、すごいよ、出てきてるよ、もう少し~。」
母の声が響く、私は張り裂けそうな痛さに耐えながらその時を待つ。
その時、助産師さんが私の手を取り赤ちゃんの頭に手を持っていった。私の手に髪の毛が触れた。フワフワ、柔らかい髪の毛が手に触れてドキドキした。
可愛い、早く抱きたい!!
痛みに萎えそうだった気持ちが再び奮い立った。
最後のいきみの後、助産師さんの声が聞こえた。
「おまたせ~!!お母さん、僕うまれたよ~!!」
私を見上げるウルウルの真っ黒の瞳、こんなキレイな瞳初めて見た。小さい小さい体から搾り出すような小さな泣き声。
カンガルーケアにお湯の中での初乳。
感動に浸っている間もなく臍の緒を切られ赤ちゃんはパパの腕にいってしまって初めて我が子と離れた寂しさに襲われた。
我が子を初めて抱くパパの目にはうっすら涙が光っていた。
私は興奮状態でお湯に浮かんだ臍の緒に興味シンシン。
それはとても美しい乳白色でゴムのような感触だった。
臍の緒に心で「栄養をありがとう」と感謝した。
後産も順調で世に言う超安産だった。
10キロマラソンを完走したような爽快感が私を包んでいた。
部屋に戻った私を赤ちゃんと両親と夫が迎えてくれた。
嬉しくて、こんなに可愛い赤ちゃんを産んだ自分が誇らしくて生まれて30年の人生で一番嬉しい日だった。
みんなに望まれて、生まれた我が家の大切な大切な宝物。
その赤ちゃんはもうすぐ2歳。
皆に比べて少しだけ成長がゆっくりなんだってさ。
その話を聞いた時はいっぱい泣いたけど、あなたはあなた。
ママの大切な大切なキラキラの宝物。
そんなあなたに今日初めて「ママ」と呼んでもらいました。
ママは嬉しくてパパの胸で子供みたいに泣いたんだよ。
成長はゆっくり、ゆっくりでお友達の何倍もかかるけど、その分当たり前の事に心から感謝出来るようにあなたがママに教えてくれました。ママって呼ばれる当たり前の事がとてもとても嬉しいよ。ありがとう、本当に生まれて来てくれてありがとう。
何度言っても足りないね、大好きだよ。

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