ボクが10月10日に産まれたのは|赤ちゃんの沐浴はスキナベーブ

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持田ヘルスケア株式会社

エッセイコンテスト

スキナベーブ 赤ちゃんエッセイコンテスト

【第8回】~ 赤ちゃんとわたし ~

佳作

・ボクが10月10日に産まれたのは

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武井 真由美
埼玉県  主婦  39歳

「おなかの赤ちゃんは、お母さんの声を聞いているわよ。」
妊婦健診時に、看護師さんに言われた言葉だ。胎児はお母さんの声が聞こえているという話はよく耳にする。胎児の耳の機能が発達してくる頃から、周りを見回しても胎教や話しかけを当然の事のように行っている。おなかの赤ちゃんとお母さんとを繋ぐコミュニケーションの一つだ。その時、看護師さんは私の心に大きく残る一言を言ったのだ。
「毎日赤ちゃんに話しかけていると、赤ちゃんはお母さんの話をよく聞いていて、予定日通り産まれるわよ。」
初産は遅れることが多いとも言われる。私の予定日は10月10日。昔の体育の日だ。男の子と聞いているので、元気な男の子にピッタリな、憶えやすく素敵な誕生日だ。
「この日をプレゼントしてあげたい!」心の中でそう思った。もちろん、私一人の力ではどうにも出来ないプレゼントだ。赤ちゃんの協力があってこそだ。やってみよう。
「頑張って声かけします。」
「頑張ってね。きっと予定日通り産まれるわよ。」看護師さんは、笑顔で応えてくれた。
子供の愛称は“がっくん”と決めていた。親しみやすく呼びやすい名前を二人で考えた。その日から毎日「今日は○月○日、がっくんが産まれる日は10月10日よ。」と、一日に何度となく声をかけた。暗闇のなかで、赤ちゃんには日にちや時間の感覚はあるのだろうか?外から毎日同じ声で聞こえてくるサイン。どんな気持ちで聞いていたんだろうか?まったくもって不思議である。
声をかけはじめた最初の頃は、本当に私の声は届いているのだろうか?半信半疑だった。しかし、おなかの赤ちゃんが成長してゆくにつれ、こちらからの一方的な声かけのコミュニケーションだけでなくお互いを感じる事が出来るコミュニケーションがとれるようになってきた。それは、ノックゲームという、マタニティ本によく載っている胎児とのコミュニケーション技法だ。おなかをトントンと叩くと、胎児が同じ場所をトントンと叩き返してくれるというものである。おもしろいもので、こちらでトントン、あちらでトントンと叩いても、叩いた場所の下から、がっくんは叩き返してくる。きっと羊水のなかでフワフワと浮かびながら、手や足を使って音の鳴るところをめがけて、叩き返して遊んでいたのだろう。私にとってノックゲームは「元気ですか?」「元気ですよ。」という安否確認を兼ねた、楽しいゲームだった。そうこうしているうちに予定日が近づいてきた。
「今日は10月9日、がっくんが産まれる日は、10月10日、明日よ。」私からの最後のサインを送った。彼に通じたのだろうか?何故だか不安より、きっと大丈夫という確信の方がはるかに大きかった。最後のサインにがっくんは、うなずき、静かにカウントダウンをしているに違いない。
日付が変わり10月10日に入った途端に、がっくんが動き始めた。陣痛の始まりだった。午前10時6分、元気な産声が上がった。狭い産道を通ってきた顔は、真っ赤に腫れて痛々しかった。胸に抱いた時、「ママとの初めての約束守ったよ。」という彼の声を聞いた気がした。10月10日、晴れてこの日が、二人の共同作業の結果、彼の誕生日となったのである。
あれから5年、5歳になる息子が近くで遊んでいる。「外から帰って来たら手洗い・うがいをするお約束ね。」「寝る前にはオモチャを片付けるお約束でしょ。」とこんな具合に毎日たくさんの約束の中で彼は生活している。これから大きくなるにつれ、ママとの守られる約束、守られない約束が数え切れないほどあることだろう。それでもママは“はじめての約束”だけは一生忘れないと思う。二人で作った記念日だからね。

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